・とりあえず思いついたものはできるだけ形にする
・物を書く時の自分のペースを把握したい
・なんかふと浮かんだので
以上3点を理由に適当にでっちあげてみました。置き場所に困ったのでとりあえずブログに格納。
特に誰ということはないんですが、もしかしたら
昨年の春に血迷って書いたやつの続きかもしれない。年の差ノーマルカポーわっしょい的な。(えー)
なんにせよいろんな意味でフィクションにはちがいない。
お陰でペースとクセはなんとなくわかった。慣れればもう少し効率よくできるのかな。
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ホツイユ02
手をつなぐのは初めてではない。
……けれど、何年ぶりのことでしょう。
「失礼いたします」
男は今にも平伏しそうなほど畏まって、それから顔を上げた。
蝋燭の灯りに照らされた相貌は常とおなじく穏やかなもの。今は少し生真面目な表情で彩られているけれど、それも男の持つ気質そのもので、めずらしいものではない。
――違うとすれば、こうして改まって向かい合っていることでしょうか。
娘は男の所作を見守りながらぼんやりと思った。男との付き合いは物心のつく前からだが、記憶をたどる限りでは初めてのことかもしれない。
少なくとも宵闇に、私室でというのは間違いなく初めてだ。そう思うと、男につられるように背筋を張っている自分が妙に気恥ずかしい。
息をするように自然に、男は娘の手を取る。
慣れない感触に娘は一瞬肩をこわばらせた。けれど抵抗はしない。取られた手が顔の前まで運ばれ、その上に男のもう片方の手が重ねられるのを無言で見守った。
つなぐ、とは違う。握るでもない。傷つきやすい至宝をいたわるように、両の手で包まれる。
――……頬が熱いのは、やさしすぎてくすぐったいから。
男の手に触れるのは初めてではない。まだ乳飲み子だったころから数え切れないほど、時には自分から触れることだってあった。
どんなに記憶をたどっても、手と手が触れて驚いたことなんてなかった。胸のうちから込み上げてくる『何か』は、きっとくすぐったくて笑い出したい衝動にちがいない。
――そうでなければ、どうしてこんなに。
「緊張しますか?」
男の声にはっと我に返ると、こちらを覗く男の眸とぶつかった。無意識に息を詰めていたらしく、己の乱れた呼吸音が耳の奥で響く。
肩を上下すること数回。息を整えながら言葉をさがすが、どれも男の言葉よりも適切には思えなくて、結局黙ったまま首を縦に振る。
娘の様子を見て男はゆったりと笑むが、どこか気遣わしげに見えて落ち着かない。
泣きたくなるのはほっとしたからか、自覚してよけいに緊張したからか。何にせよ男の顔を窺う己の顔がものすごく情けないものになっていることだけは、鏡を見なくてもわかる。
緊張している。そこは否定のしようがない。でも何に緊張しているのか、いまひとつわからない。
「あの頃とは違いますから」
娘の心を見透かしたかのように応える男の声はやさしい。いたわるように。包み込むように。ちょうど娘の手を包む両のてのひらのようだ。
あのころとはちがう。その言葉が娘の頭の芯に、ゆっくりとしみわたる。
――ああ、そういえば。
娘がずっと幼かった『あの頃』、「手をつなぐ」と言えば娘が男の指を数本握ることだった。
二人の年齢は一回り違う。背丈だって、あの頃は男の腰に届くかどうかというほど差があった。男は片手で娘の手をすっぽりと覆うことができただろう。
あの頃少年だった男も、今は立派な大人だ。背丈も随分伸びたと思うけれど、幼子だった娘はもっとずっと成長している。男の肩越しに向こうを見やることもできるし、ちょっと背伸びすれば男の頭に触れることだってできる。手の大きさの差だって、ずっとぐっと縮まった。
――縮まった、はずなのだけれど。
娘はいまだ己の手をつつむ男の手を見つめた。
武器よりも筆を執ることの多いその手は、荒事を好む父に比べればずっと繊細だ。けれど大きくなったはずの己の手がとても頼りなく感じるほどには、骨ばっていて重みがある。
『あの頃』よりもずっと大きくて、力強くて。それは娘の知っている少年の手ではなかった。
――おとこのひとの、て――
瞬間、熱が一気に戻ってきた。耳朶まで熱を持っているのがわかるほど顔が熱い。全身から湯気が出ているのではないかとすら思えてめまいがする。
いっそこのまま気を失えたらどれほどいいだろう。だが願いとは正反対に、意識は鋭く敏感になっている。
包まれた手が、熱い。
――あの頃とは違いますから。
――なにが違うのでしょう。
――なにもかもが。
気づいてしまうと何だかとんでもないことをしている気がして、全身の火照りはどんどん増していった。胸の鼓動も息が苦しくなるほど激しい。けれど重ねられた手を振り払うこともできず、動くことすらできない。
熱に浮かされながら凍り付いていると、困ったように男が笑むのが見えた。穏やかな眸は変わらず、それが余計に娘の認識の遅さを思い知らす。
兄と妹のように振舞えたあの頃とは違う。そんなことも思い当たらなかった己の浅はかさが恨めしくて、幼さが恥ずかしい。
けれどあの頃のように子供ではない。
気づいてしまったのだ。
もう、子供ではいられない。
きっと記憶にある限りでは初めて。
娘は男の眸から逃れるように、目を伏せた。
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目標テーマ:「ほぼ何もしてないのになんかやらしい(もしくは妙に恥ずかしい)」
無謀すぎた。
男は手が触れただけで初々しい反応してくれるむすめっこに言い知れぬ罪悪感とか背徳感に駆られてればいい。私はそろそろ黙るといい。

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