――ホツマの事、どう思う?
父にそう聞かれたのは七日前。そして三日前には、ホツマとの縁組が決まったと聞かされた。
慌しく婚儀の準備が進められる中、齢十五の新婦イユは何ら変わらぬ生活を送っていた。
「ホツマ、こちらのは終わりました」
そう言って書類の束をホツマの文机へ置く。文机の上に広げた別の書類と格闘していたホツマは筆を止めて顔を上げ、それから柔らかく微笑んだ。
「ありがとうございます。ではそちらのもお願いします」
「はい」
置いた書類から離した手を、ホツマの手が差した別の束へと向ける。抱きかかえるようにして書類を持って腰を上げ、もう一度ホツマを呼んだ。
「お茶でも淹れます?」
「ああ……そうですね。それではお願いします」
「はい」
にこりと笑顔を返して今度こそ立ち上がり、己の文机の上に書類を置いた。それから戸棚から急須を取り出す。ふと目をやれば、ホツマはまた文机に向かっていた。黙々と書類に何か書きつけている姿はいつ見ても変わらない、真剣そのものだ。
そういえば、とイユは思う。
嫁入り前の娘が若い男と部屋に二人きり。数ヶ月以内には夫となる相手だから問題ないと言えば問題ないけれど、ホツマの仕事を手伝うようになってから今年で九年目。始めた時はまだ七つ、そうし事を気にするには幼すぎたし、何よりもホツマは己にとっては第二の兄のような存在だった。だから全く考えたことはなかったけれど、随分とはしたない事をしていたのかもしれない。
急須の蓋を開け、茶葉を入れて湯を注ぐ。相変わらずホツマは目の前の書類に集中している。
考えてみれば、とイユは首を傾げる。
二人きりの部屋で、二人で仕事をして、二人で休息を持つ。これはまさに夫婦の姿ではないか。イユにとって最も身近な夫婦である両親は、いつも寄り添い何をするにも必ずどちらかが手を貸す。その姿は今の己とホツマの姿と見事に重なった。だがおかしなことに、イユとホツマはまだ夫婦ではないのだ。
――イユとホツマで、私と父様みたいになるの。どう?
七日前、父の突然の問いに戸惑っていたイユに言った母の言葉を思い出す。その時は漠然とながらも嫌な気はしなかったのでそう応えたけれど、既に父や母みたいなのに、一体これ以上何が変わるのだろう。
「イユ様?」
呼ばれて我に返ると、すでに湯飲み二つには緑茶が注がれ、急須も脇に置かれていた。お茶ができてもしばらく考えに耽っていたらしい。イユは慌てて小さな漆塗りの盆に大き目の湯飲みを載せ、ホツマに差し出す。
「ありがとうございます」
追及するでもなく、ホツマはそれだけ言ってまた柔らかく微笑んだ。湯飲みを受取り喉を潤す姿をぼんやり見ながらイユは思う。
母の言葉を聞いたとき、浮かんだのはこの優しい笑顔だった。夫婦になるということはこの笑顔がずっと見られるという事なんだろうと思い、それはとても嬉しいことだと思って、首を縦に振ったのだ。
でも。
「……夫婦になるとは、具体的には何をすることなのでしょう?」
思わず口についたその言葉に、ホツマは間欠泉のごとく茶を噴き出した。
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さすがに十五でそれはない、と思いつつもこの常識の偏りっぷりがそれらしいとも思える悲しさよ。
ちなみにホツマは二十六くらいなんじゃないか。あっ、ベルクートと同い年じゃないかやっべ。どんどんかぶりまくってるわー
あ。試しに+勢いで書いたのでこの設定は全力で未定であります。

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COMMENT
大人になったね・・・!!
貴様ら
過去の経緯を思い返したら「まったくだ」と頷かざるを得なかった。もうだめだ。
このお話はフィクションです。実際のキャラクター、設定とは関係がありません。