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「難儀しているみたいだな」
何に、とは敢えて言わなかった。だがホツマはきちんと察したようで、曖昧な笑みを浮かべて筆を置く。
仕事が生きがいであり己が存在意義だ、と言い切ってはばからないのがホツマだ。過労死こそが最上の幸福と考えている節もある仕事の鬼が手を休めるなど、よほど深刻な事態だ。
タカムナは眉を顰めた。その様子を見てホツマは苦笑するが、ゆるゆると息をついて本題に入る。
「間合いが掴めないんですよ」
「ほう」
短い相槌を打ち、目では注意深くホツマの様子を探る。
遠い目で薄く微笑んでる様子は少々怖い。常人なら堰を切ったように笑い出している頃か。
「本来ならもっと距離を取るべきなんでしょうけど、あからさますぎるし。かといってでは幼い頃のように、なんてするとこう、」
この男には珍しくそこで言葉を詰まらせた。数拍置いたが己から切り出す気配がないので「こう?」と先を促す。
「……こう、いたたまれなくなるというか」
「小娘か」
思わず口に出た言葉は自分でもどうかと思うほど辛辣だった。だがどう考えても恋に不慣れな小娘の台詞だ。二十代も半ばを過ぎた、大の男の言う事ではない。
「本当にね、言うべき方がそう仰ってくれればまだ助かるんですけど」
タカムナは先ほど顔を合わせた娘を思い出す。たしかもうじき十六になると言っていたか。娘がまだ三つにもならない頃から知っている身としては、年月の速さには驚かされる。
屈託のない笑顔は幼い頃から変わらないものだった。ほっとするがその一方でホツマの悩みも頷ける。
――祝言を挙げるということが、わかっているのかどうか。
それがなんともわからないからこそ、ホツマは接し方に困っているのだろう。
遠い目をしたまま、ホツマがゆるゆると息をつく。そういえばホツマが溜息をつくことも珍しいなと、タカムナはぼんやりと思う。
「何も考えずに済んだあの頃に返れたら、といささか本気で思ってます」
「………………重症だな」
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最終的には「まあ間合いはな。相手の出方を見るか、そうでなければ腹を括れ」という助言になってない助言でホツマがものすごい渋面、というオチまで考えたけど面倒なのでたぶんそこまでは形にしない!さっさと絵描きます!2人絵ってすごく苦手…!orz
ちなみに現代日本の二十代後半男がぐだぐだ言ってても問題ないと思います。

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